テレビを見ていると、画面の切り替え時に一瞬だけ別の画像が映る・・・そんな経験をしたことはないでしょうか？
あれって何？ そんな疑問を持たれている方も、少なくないはずです。
一瞬だけ映る画像の正体
地方のテレビ局は、日本全国に張り巡らされたNTT中継回線と呼ばれる番組ネット回線を通じて、東京などのキー局から番組の配信を受けています。
例えばキー局が日本テレビであれば、日本テレビのサービスエリアである関東地区向けの映像が、NTT中継回線を通じて地方局に配信されているのです。
もちろん関東地区向けの映像ですから、関東ローカルのCMも一緒に配信されているわけで、そうなるとキー局同時ネットの全国ネット番組であっても、スポンサーの関係（例えば【東京：NTT東日本⇔広島：NTT西日本】【東京：NTTドコモ⇔広島：NTTドコモ中国】など地域によって会社が異なる場合や、P＆Gのように地域によって商品展開が異なるケースが多い場合、それに一部地方に店舗を持たないチェーン店の場合など）やキー局と地方局でスポンサーが異なる場合でも、NTT中継回線を通じて関東ローカルのCMが流れることになります。
関東ローカルのCMを地方でそのまま放送するわけにはいきませんから、地方局では、関東ローカルのCMを地元用のローカルCMに差し替える必要が出てきます。
通常、複数の同時ネット局があるキー局からの番組には、番組本編とCMの間に“キュー信号”と呼ばれる制御用の信号が入れられており、地方局ではこのキュー信号を受けることでCMスタートのタイミングを計り、必要であればコンピューター制御でローカルCMに差し替えます（差し替えの必要がなければキュー信号は無視してキー局からのCMをそのまま流します）。
ただこのキュー信号を使った方法ではどうしてもタイムラグが発生してしまうため、CMとCMの切り替えの瞬間や番組本編からCMに切り換わる瞬間、またCMから番組本編に切り換わる瞬間などで、CMの切り替えのタイミングが微妙にズレると、一瞬（1〜2コマ程度）ではありますが、地方局で関東ローカルのCMが流れてしまうのです。
これが画面の切り替え時に一瞬だけ映る画像の正体で、通称“チラ見え”と呼ばれています。
またCMだけに留まらず、番組によっては放送内容を地方局ごとに差し替えて放送することがあります。
例えば、日本テレビ系で月〜金曜日の早朝に放送している『ズームイン!!SUPER』はキー局同時ネットの番組ですが、天気予報のコーナーだけは地方局ごとに差し替えて放送しています。
これは、NTT中継回線で配信されている映像が、日本テレビが放送している関東地区向けの天気予報であるため、地方局での差し替えが必要になるのです。
その天気予報コーナーの前後で、NTT中継回線とローカル放送の切り替えのタイミングが一瞬だけズレて、関東地区の天気図が見えてしまうことがあります。
地方局でCMや番組の放送内容を差し替えることは頻繁に行われていますから、局によって頻度は異なりますが、地方局ではかなりの確率で関東ローカルの画像を一瞬だけ視聴できるのです。
チラ見えを防ぐ装置も開発されているのですが、これは1999年に読売テレビが“テレビ放送における映像の切替方法及びその装置”として特許出願（出願番号：特許出願平11-212727）しているため、使用する際には読売テレビに使用料を支払わなくてはいけません。
ただこの装置を用いても完全にはチラ見えを防げないことや、CM切り替えの度に料金が加算されるシステムになっているため、膨大な出費になることからまともに導入している局はなく、実際に運用しているのは読売テレビだけのようです。
では東京を始めとした関東地区ではどうかというと、これらの“一瞬だけ別の画像が映る”ということは滅多にありません。
ほとんどの番組が東京キー局で制作され、東京から地方局へ配信されている現在、関東地区ではCMや番組の放送内容を差し替える必要がないからです。
“一瞬だけ別の画像が映る”の例
しかし、東京でも一瞬だけ別の画像が映る事例を確認できる番組はいくつかあります。
それは大阪や名古屋の準キー局を始めとする地方局が製作した番組で、こうした番組は一部例外もありますが、ほとんどは製作局である大阪や名古屋から配信されています。
この時ばかりは、日本テレビも地方局と同じ扱いになりますから、場合によっては東京でもCMを差し替える必要が出てくるのです。
そこで、東京でもこの事例を確認できる『名探偵コナン』について、詳しく検証してみました。
この番組は大阪の読売テレビ製作で、大阪から地方局へ配信されています。
ただ、通常のキー局同時ネットのアニメ番組は全国どこでも同じCMが流れていることから、『名探偵コナン』でもCMの差し替えはないように思われるかもしれません。
しかしこの番組が他のアニメ番組と違うのは、日本ガス協会がスポンサーに付いているということです。
日本ガス協会とは、日本全国の都市ガス事業者が加盟している団体（社団法人）のことで、実際のCMでは、地方局ごとにそれぞれの地域の都市ガス事業者のCMが流れます。
NTT中継回線を通じて配信されているのは読売テレビの映像であるため、日本ガス協会のCMでは大阪ガスのCMが流れているわけですが、地方局でそれをそのまま流すわけにはいかないので、実際には地方局ごとにCMを差し替えて放送しています（日本テレビでは東京ガス、広島テレビでは広島ガス・福山ガス・因の島ガス、といった感じです）。
しかし、このCMの切り替えのタイミングが一瞬でもズレてしまうと、1〜2コマだけ大阪ガスの画像が映ってしまうのです。
下の画像は、『名探偵コナン』における日本ガス協会のCMの切り替えの瞬間をキャプチャして、1コマごとに並べたものです。
上から1段目が広島テレビ、2段目が読売テレビ、3段目が読売テレビからの配信に使用されているNTT中継回線で、画像を横に見ていくと、広島テレビではCMと本編の間に1コマだけ大阪ガスの画像が映ってしまっています。
3段目のNTT中継回線の方では、本編直前まで大阪ガスのCMの映像が流れていますから、広島テレビでは切り替えのタイミングが早過ぎて1コマだけ大阪ガスのCMが流れてしまったことになります。
[1]【動画のダウンロード】
地方局では番組の冒頭が欠ける？
一瞬だけ別の画像が映るチラ見えが発生するポイントとしては↓
[2]
では、逆に切り替えのタイミングが遅過ぎるとどうなるのでしょうか？
切り替えが遅過ぎるということはキー局で番組が始まってもまだ地方局では直前のローカルCMが流れているということなので・・・そう、番組の冒頭が欠けてしまいます。
『七人のナナ』のOPで比較してみましょう（動画のダウンロードができます）。
このOPは開始と同時に曲が流れるタイプなので、テレビ大阪ではOP冒頭の映像と音声が欠けているのがすぐに分かります。
【AT-X放送版】
【テレビ大阪放送版】
また下の画像はテレビ東京とテレビ大阪の『シャーマンキング』OP冒頭をキャプチャしたものですが、テレビ東京ではOPの歌詞が表示される前から放送が始まっているのに、テレビ大阪では少し遅れて歌詞が表示されているところから始まっています。
普通に見ているだけではまず認識できませんが、ビデオなどに録画して1コマずつチェックしてみると、地方局ではかなりの番組で冒頭が欠けていることが分かります。
[3]
「週刊現代」のサブリミナル騒動記事
講談社が発行する週刊誌「週刊現代」2004年3月27日号に、“スクープ 超高視聴率番組打ち切りか フジ『SMAP×SMAP』に洗脳サブリミナルCM疑惑！”という特集記事が掲載されました。
『SMAP×SMAP』は大阪の関西テレビ製作であるため大阪から地方局へ配信されているのですが、CM切り替えの際のズレにより関西テレビのローカルCMがフジテレビで一瞬だけ見えたという非常に有り触れた現象を、何を勘違いしたのか「週刊現代」が得意気に“サブリミナルCM疑惑！”と報道してしまったというものです。
一般人ならともかくマスコミの人間がこんなことで躍起になって、しかも3ページに渡って検証してしまったというのだから恥ずかしすぎ、しかも関西テレビに取材して原因が技術的なことで回避不可能なことだと分かっていながら、それを認めずにサブリミナルだと結論付けているのがまた救えません。
「週刊実話」のサブリミナル騒動記事
「週刊現代」の『SMAP×SMAP』に続く勘違い報道の第2弾です。
日本ジャーナル出版が発行する週刊誌「週刊実話」2004年10月14日号に、“断罪スクープ 韓流ドラマ買い漁りの日テレで「ヨン様サブリミナル」疑惑発覚！”という特集記事が掲載されました。
『2004 ANAオープンゴルフトーナメント』の番組冒頭、一瞬だけペ・ヨンジュンの顔のアップが見えたというものでしたが、これについて同誌では“日本テレビは韓流ドラマに多大な先行投資をしたが、ドラマの視聴率が散々たる結果になっている。そこでペ・ヨンジュンの特番を宣伝するためにこのようなことをしたのではないのか？”と分析していました。
ここで言われている特番とは、翌日に放送の『独占緊急生放送！今熱き韓流ブーム』のことですが、この映像を『2004 ANAオープンゴルフトーナメント』が始まる直前にサブリミナル映像として挟み込んだのでは？ということのようです。
ただ同じページに掲載されている『独占緊急生放送！今熱き韓流ブーム』の画像には、左上に札幌テレビのマスコットキャラ“スピカちゃん”と“STV”の文字が・・・。
『2004 ANAオープンゴルフトーナメント』は札幌ゴルフ倶楽部・輪厚コースで行われ、札幌テレビ製作で全国ネットされている、と書けば分かるでしょう。
これも関西テレビの『SMAP×SMAP』と同じで、札幌テレビから地方局へ配信された時に、CM切り替えの際のズレにより札幌テレビのローカルCMが日本テレビで一瞬見えたというだけなのです。
「週刊現代」とは違って“放送事故との見方もある”としているのでまだマシではありますが、それ以前にこのような事情を知っていれば、こんな記事を書けるわけないのですが・・・。
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このページの画像について ○このページで使用している画像の著作権は、以下が所有しています。 ◇[1]『名探偵コナン』：青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996 ○このページで使用している画像のキャプチャ元は、以下の通りです。 ◇[1]『名探偵コナン』：広島テレビ |